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転機と戦意。
まるで誇り高きもののように。


草を食み、水を飲む。
泉に写ったその姿から、自分が一頭の雄牛であることを知る。
周りには同族と、様々な獣。肉食のもの、草食のもの。人間の姿もある。
ここは付近では珍しい水場。
ここでは食う食われるの争いは起こさない。
そういう約束。

誰と誰がしたのかは知らないけれど。
何処で何時されたのかも知らないけれど。
そういう場所。

ただその日はいつもと違った。
いつもどおりそこに居る私たちの元に、黒い獣が降り立った。
天を突くような大きさで、夜の帳のような翼を持った。
それはまるで現に染み出した悪夢のようだった。

水場に降り立ったそれは呆然とする周りを無視して泉に鼻面を突っ込んだ。
しばし喉のなる音が響いた後、それは頭を上げた。
鎌首をもたげ、辺りを睥睨した。

本能的な恐怖。弾かれるようにその場に居た動物たちが駆け出す。
私もその中でなりふり構わず逃げ出した。

だが遅すぎた。

染み出した悪夢はそれを中心に辺りをどんどん食っていった。
顎に捉えられ上半身を失うもの。
踏みしだかれ砕け散るもの。
尾で薙がれたものはまるで石ころのように宙を舞った。

気が付けば悪夢の領域は広がりすぎて、全員が平等に逃げ遅れていた。
運のいいものだけが死の腕に選ばれなかった。

私は逃げた。
脇目を振る余裕も無かった。
走って。
走って。
走り続けて。

ついにその場にくずおれた。
心臓は破裂しそうで、全身から立ち上る湯気が一時視界を覆った。
辺りは既に薄暗い。一体どれだけ走り続けたのか。

熱い息を吐き出し、気づいた。
周りには誰も居ない。
ともに逃げ出したものとは、全て死に別れるかはぐれるかしてしまったらしい。

探そうとして諦めた。おそらく、自分の仲間たちはもう生き残ってはいまい。
運よく生き延びたとしても、群れでなく単体では、肉食のもの達にとっても格好の獲物でしかないのだから。
そう、今の自分と同じように。

西の空を見上げる。
夜空に浮かぶ雲の一部が、赤い照り返しを見せている。

夕日ではない。あれは炎。
あの黒い獣が吐き散らすもの。


力無きものは逃げ隠れするしかない。
しかし

しかしあれは
あれは生かしておくわけにはいかない。
この身は朽ち果てるしかない。ならば。
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